本研究道場特別講義では科学教育・博物館教育・サイエンスコミュケーション研究分野で著名な国立科学博物館の小川義和先生をお招きし,「コミュニケーションとしての展示~博物館展示への学習者による新たな価値創造を促す学習プログラムの試み~」という題目で講演していただいた.ご講演では,小川先生がこれまで実際に取り組んでこられた事例を踏まえながら博物館の歴史や博物館教育に関してお話を伺った。 博物館は類似施設も含めると5000館以上も存在しているが,博物館法により,相当施設や類似施設が多いという問題がある。国立科学博物館でさえも相当施設であり,博物館登録はされていない状況である。博物館の種類は多岐にわたり,例えば,科学博物館の他にも歴史博物館や美術博物館などが挙げられる。それらの区別に関しては,非常に曖昧であり,異なる種類の博物館に同様の展示物が設置されている場合もある。また,博物館の歴史は長く,最古の公共博物館であるアシュモレアン博物館は1683年に建てられている。博物館の役割は,大きく3種類に分けられる。1つ目は資料の収集・保管,2つ目は調査・研究,3つ目は展示・教育である.Internationl Council of Museums (ICOM)によると「博物館とは,資料の収集,整理・保管,調査研究とそれらの成果を生かした展示や教育活動の各機能をもつ社会に開かれた施設」であると定義づけられている。 博物館教育は,生涯学習において重要な意義を持っている。博物館教育においては,展示を通して学芸員(見せる側)と来館者(見る側)の間のコミュニケーションが成立することが必要である。そのコミュニケーションこそがサイエンスコミュニケーションであり,サイエンスコミュニケーションを洗練するために,来館者の発現を研究しフィードバックを得ることが必要である。本講義を受けることで,インフォーマル学習の代表ともいえる博物館教育の歴史や現状を知ることができ,普段の自分自身の研究とは異なる視点からの知見を得ることができたと感じている。(人間発達専攻 M1 若林和也)