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『キーワード 人間と発達 増補改訂版』

紹介


『キーワード 人間と発達 増補改訂版』
[編] 神戸大学発達科学部編集委員会
(大学教育出版,2007年3月,税込2,625円,
[ISBN-10] 488730725X / 4-88730-725-X,
[ISBN-13] 978-4887307254 / 978-4-88730-725-4)

人間はどこからきて,どこに向かうのか。「人間」とその「発達(Human Development)」は,21世紀の人類社会を読み解き,創造するうえで,最も重要な概念のひとつだ。神戸大学には,人間とその発達についてトータルに研究・教育する発達科学部という,とてもユニークな学部が,全国に先駆けてできた。本書は,こうした発達科学部の全教員が共同で執筆したキーワード集である。

従来,自然科学的な生物種としての「ヒト」,および,人文・社会科学でいう「人間」は,しばしば切り離され,別々に論じられてきた。また誕生から死にいたる人間の発達は,しばしばライフステージ毎に切り離して,個別に論じられてきた。しかし神戸大学発達科学部では,(1) 生物種としてのヒトの生成,(2) 歴史・社会的な主体としての人間の形成,そして (3) 一人ひとりの一生にわたる発達という3つの時空でのHuman-Developmentをトータルに,また学際的に研究している。本書は,こうした発達科学部の研究成果をふまえ,広い視野から,また多彩な分野と方法論において,人間と発達にアプローチした。

増補改訂版について

本書の初版は2005年4月,刊行された。1年半を経た今日,増補改訂版を刊行できることは,我々にとって大きな喜びである。

本書の増補改訂版は,「ひとの一生とライフステージ」,「人間の形成: 教育と支援」,「行動と健康」,「感性と表現」,「生活とテクノロジー」,「環境: 自然と社会」などの章からなり,総計133項目のキーワードを集成・解説している。人間に関心をもつ多くの読者から貴重なご意見・ご批判をいただき,それらを今後の発達科学のさらなる学的発展に結晶化させることができれば,幸いである。

増補改訂版では,「ナラティヴ・アプローチ」,「科学的認識の形成と人格の発達」,「認知と学習」,「健康増進」,「運動心理学」,「現代社会と数学的思考」,「海と地球環境」,「共生の進化」という8つの新たなキーワードを追加収録した。またそれにともない,事項・人名索引も補充した。新たなキーワードの執筆者は,初版刊行以降,神戸大学発達科学部に赴任した教員全員である。

背景

この1年半は,発達科学部にとって大きな変革の道程であった。

本書初版が刊行された2005年4月,新たな4学科体制(人間形成学科,人間行動学科,人間表現学科,人間環境学科)が発足し,新入生のための必修科目「発達科学への招待」が創設された。

また学部の教育研究体制と密接な関係を有する大学院・総合人間科学研究科の附属施設である発達支援インスティテュートの「ヒューマン・コミュニティ創成研究センター」が正式にスタートした。ここでは,大学が地域や学校,行政,企業等と協働し,人間らしさあふれるコミュニティの創成を目指した,多様な実践的研究が行われている。

市民との交流・協働も,大きく前進した。ヒューマン・コミュニティ創成研究センターのサテライト施設である「のびやかスペース あーち」が開設され,多様な市民と大学のネットワーキング,アクション・リサーチが展開している。「市民の科学に関する大学の支援プロジェクト」もスタートし,神戸の街中でサイエンス・カフェがたびたび開催され,科学者と市民が科学技術の話題について語り合っている。

大学院改革も進み,2007年度より,発達科学部の上に大学院・人間発達環境学研究科(博士前期・後期課程)が設置されることが決定した。この新たな大学院は,心身発達専攻,教育・学習専攻,人間行動専攻,人間表現専攻,そして人間環境学専攻の5専攻からなり,附属施設として発達支援インスティテュートを擁している。

上でも記したように,「人間」とその「発達(human development)」は,21世紀の人類社会を創造する上で,最も重要なキーワードの一つである。神戸大学発達科学部は,人間と発達に関する研究・教育・社会貢献の担い手として「発達」し続けている。本増補版の刊行もまた,こうした発達科学部の知的挑戦の一つである。

(浅野 慎一)

目次

序. 人間と発達

  1. 人間はどこからきたのか
    • ヒトはどのようにヒトになったか? ―ヒトの誕生と進化
    • 人間はどのように人間になったか? ―人間の歴史と発達
    • 私たちが生きる時代はどんな人間を創造したか? ―近代人の誕生と発達
  2. 人間発達とは何か
    • 「私」というものの起源 ―私はいつから「私」か
    • 「私」が「私」になること ―アイデンティティの発達
    • 何をもって「人間発達」というのか? ―人格と能力のはざまで
    • 人間は「発達」をどのようにとらえてきたか? ―「発達」の発見と変遷
    • 「発達が権利である」とはどういうことか? ―人権と発達権
  3. 人間はどこにいくのか
    • 人間らしく生きるとはどういうことか? ―人間性(human nature)の発達と疎外
    • 主体的に生きるとはどういうことか? ―法則的認識論と人間の自由意志
    • ヒトはいつまでヒトでありつづけるのか? ―ヒトゲノムからみた人間発達のゆくえ
  4. 本書の構成

I. ひとの一生とライフステージ

  • 総説
  • 赤ちゃんの誕生
  • 乳幼児期 ―乳幼児の内面世界から見えるもの
  • 児童期 ―9, 10歳に起こる心の変化
  • 子どもの遊びと文化
  • 子どもの権利 ―子どもの権利条約
  • 発達障害 ―対人行動・人間関係をめぐって
  • 思春期 ―自立のはじまりとそのつまづき
  • 青年 ―社会文化的所産としての発達期
  • 性と生殖 ―青少年と性
  • キャリア発達
  • 子育て ―子育て世代の課題と支援
  • サードエイジ ―サクセスフル・エイジングをめざして
  • 高齢者 ―加齢と運動機能
  • 少子高齢社会に未来はあるか
  • エイジズム ―年齢差別をいかに超克するか
  • ライフコース ―生涯発達の視点から
  • 障害 ―ひとの経験の多様性
  • 家族 ―親子関係の揺らぎと再生
  • セックスとジェンダー ―男女平等へのストラテジー
  • 死をどのように受けとめるか
  • ナラディヴ・アプローチ ―人間理解のもう一つの方法

II. 人間の形成: 教育と支援

  • 総説
  • 教育と法 ―教育基本法と教育権
  • 統治としての教育 ―近代ポリス論の視点から
  • 教育改革 ―学校選択と学区制度
  • 学校教育 ―ゆとり教育と少人数学級編制
  • 科学的認識の形成と人格の発達
  • 認知学習 ―頭の働きを解明する
  • コンピュータを通した学び ―学習環境をデザインする
  • 数理認識の形成 ―算数・数学の学び
  • 市民的資質の形成
  • 科学技術と教育 ―科学技術社会をどう生きるか
  • 身体と教育 ―地域と学校を結ぶからだづくりの実践
  • 言語認識の形成 ―ことばの学び
  • 討論を通した学び ―ディベート学習
  • 音楽的感性の育成
  • 美術的感性の育成 ―バウハウスの挑戦
  • 異文化理解・国際理解の促進
  • メディア・リテラシーの育成
  • 臨床教育 ―子どもの居場所をつくる
  • 特別支援教育 ―一人一人の教育的ニーズに応じた適切な教育支援
  • カウンセリング ―心理臨床の現場から
  • 児童養護と発達支援 ―家庭・学校・地域をむすぶ
  • 生涯学習
  • エンパワーメント

III. 行動と健康

  • 総説
  • 健康発達 ―子どもの心と体の健康と発達
  • 健康増進
  • 健康行動 ―ライフスキル
  • 健康環境 ―「あし」の機能と健康を考える
  • 健康教育 ―性・エイズ
  • 健康政策 ―喫煙・薬物対策
  • 健康評価 ―保健・医療・福祉の連携と健康指標
  • メンタルヘルス ―不健康への寛容
  • 精神障害 ―臨床の現場から
  • スピリチュアリティ ―現代人の宗教意識と精神
  • 社会行動 ―なぜひとは,その行動をするのか?
  • レジャー ―スポーツとレクリエーション
  • 生涯スポーツ ―新しいスポーツ文化の可能性
  • スポーツマネジメント
  • 身体文化 ―ホッケーにみる階層と性
  • ホメオスタシス ―環境からの刺激と生体適応の歴史
  • 生体リズム
  • バイオメカニクス ―やり投げにみる身体動作
  • 体力
  • 運動制御 ―随意運動と予測
  • 運動心理学 ―健康スポーツの心理
  • 運動処方
  • スポーツ外傷 ―軽度脳神経外傷

IV. 感性と表現

  • 総説
  • 感覚 ―マルチ・モダリティ
  • 感性 ―わざ
  • 音 ―サウンドスケープ
  • 色 ―日本人の色彩
  • 音楽表現 ―指揮者の視点から
  • 身体表現 ―舞踊と体感
  • 造形表現 ―変態する人間
  • 言語表現 ―内面の物象化
  • 表現文化 ―その研究領域の刷新と学問的射程
  • 美 ―社会における芸術の機能と創造の美学: 「実用音楽」と聴衆
  • 芸術 ―演奏家の立場から
  • 批評 ―芸術と社会の狭間で
  • 創造 ―音の構成
  • リアリズム ―朗言甬的歌曲の表現法
  • 芸術療法
  • アートセラピスト
  • 表象 ―ファッションへのまなざし
  • 民族と祝祭 ―民俗音楽と祭り
  • 博覧会 ―近代の文化装置
  • メディア ―テレビと監視社会
  • 美術館ワークショップ ―プロセスの中で変化していく学び

V. 生活とテクノロジー

  • 総説
  • ライフステージと食
  • アパレルと風合い ―新感覚・新機能性素材
  • 自然派健康住宅
  • 単身化社会のすまい
  • 緑化とアメニティ
  • 家庭用エネルギー ―省エネルギーとコージェネレーション
  • IT技術と生活 ―コンピュータネットワーク
  • インターネット ―社会構造のパラダイムシフト
  • 人間生活工学 ―e-生活メカニクス
  • ヒューマンエレクトロニクス
  • ユニバーサルデザイン
  • 現代社会と数学的思考
  • 情報と論理 ―情報システムと信頼性
  • コンピュータによる問題解決方法 ―グラフとネットワーク
  • 統計による問題解決の手法 ―データ解析
  • リスク社会の空間
  • 食の安全性 ―食のリスクアナリシス
  • バイオテクノロジー ―遺伝子組換え植物と遺伝子操作の今後の課題
  • 情報セキュリティ ―暗号技術と代数系
  • ホット/コールド・スポット
  • 暮らしとコミュニティ ―神戸で「共に生きること」とは
  • 生活の「豊かさ」とは何か ―well-beingとwelfare

VI. 環境: 自然と社会

  • 総説
  • 物質と時空 ―人間環境の枠組み
  • 宇宙環境 ―人間と宇宙のかかわり
  • 地球システム ―地球環境動態と人間
  • 海と地球環境
  • 共生の進化
  • 大気汚染 ―浮遊粒子状物質
  • 水質汚染 ―河川水の汚染と水道水の安全性
  • 地質汚染 ―土壌の有機塩素系化合物による汚染
  • 環境化学物質
  • 生命と環境 ―環境物質の生体作用と生体応答
  • 環境にやさしい生体触媒
  • 生態系 ―里山にみる自然と人間の関わり
  • 地球環境問題 ―地球温暖化・酸性雨・その他
  • 自然現象・社会現象への数理的アプローチ
  • エネルギー問題
  • 廃棄物問題 ―物質循環の視点から
  • エコロジー ―人間と自然の関係を考える多様な思想
  • 都市 ―都市圏と都市システム
  • 市場
  • グローバリゼーション ―「もうひとつの世界」は可能か
  • ネイション
  • 市民社会 ―市民の可能性と限界
  • 平和と暴力 ―人間発達としての平和構築

事項索引

人名索引

あとがき