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神戸大学大学院人間発達環境学研究科 大学院生の研究活動2020

[前期課程]

 

1歳6か月児健診での,親の傷つきを考える

櫻井 梨菜(人間発達専攻 心理系(臨床心理学コース) 前期課程2年)
研究分野:臨床心理学

現状の1歳6か月児健診においては,わが子が健診でひっかかること自体や,専門職からかけられる言葉などによって,親御さんが深く傷ついてしまうケースが一定数存在しています。私は,傷ついた親御さんが,傷つきから回復するために有効な支援方法や,そもそも不必要な傷つきを引き起こさない健診のあり方などについて,研究をしています。研究や実習を通して,「専門職として提供する援助が,本当に相手に寄り添ったものになっているのか?」「相手の心に寄り添うとはどういうことか?」と日々深く考えさせられます。これらの問いは,将来,臨床心理士および公認心理師として働く上でも,常に持ちつつけていたいと思っています。


インクルーシブな舞踊創作実践と研究

森田 加津世(人間発達専攻 表現系 前期課程2年)
研究分野:表現・舞踊

私は障害のある人の舞踊創作について研究をしています。現在,日本国内外でインクルーシブダンスと呼ばれる障害者と健常者が混ざっての創作活動が注目され,多数展開されています。障害のある人とない人がどのように異なる身体と向き合い,違いや共通点を共有し,舞踊創作をしているのか。実際の現場での創作活動から,異なる身体を横断する可能性を探りたいと思っています。そして私自身,ダンサーとして現在も活動しています。自分の経験してきたことも含めより深く学び,言語化したいという想いから大学院への進学を選びました。実践者そして当事者だからこそ見える視点を大切に,学際的な側面をあわせ持ちながら研究を進めていきたいと考えています。


「歩行」を通して人々を健康に

宮寺 伶央(人間発達専攻 行動系 前期課程2年)
研究分野:運動生理学

私の研究は,針金ハンガーを頭に被ると頭部が回旋してしまう「ハンガーリフレックス」という現象をヒントにして,身体を触られたり引っ張られたりすることを感知する「皮膚感覚」の変化が立位姿勢や歩行に与える影響を明らかにすることです。この研究で得られた知見を社会に還元することで,高齢者を始めとした人々の転倒予防に役立てたいと考えています。そのために,高齢者福祉が発展しているオーストラリアで交換留学を行い,運動を補助するウェアラブルデバイスの研究や,福祉制度の歴史について学びました。少子高齢化により健康問題への注目が集まる近年において,人々の健康の一助となる研究にしたいと思っています。


「良い先生」をどう育てるか

浅井 七海(人間発達専攻 教育系 前期課程2年)
研究分野:教育学,教育行政学

私は「大学における教員養成課程」に注目しながら,教育とはどうあるべきか,そして教員はどうあるべきかという理念の再構築に向けて研究しています。その中でも特に,教員養成課程において「良い先生」を育てるシステムづくりが最終的な目的です。わが国では,誰しも少なからず「学校」という場に関わることになります。ここに対しては肯定的な意見も否定的な意見もあり得ます。また,そこには多様なニーズが潜みます。しかし,そのニーズを満たすことが直接教育の改善につながるとは限らず,そこが研究の難しいポイントだと感じています。その葛藤の克服,多様なニーズと教育の理念の調和を果たし,よりよい教員養成のシステムを構築することを目指したいです。


様々なデータに理論的評価を

西本 有希(人間環境学専攻 環境基礎科学系 前期課程2年)
研究分野:数理統計学

私の研究テーマは「ウィリアムズ法の保守的検定の構築」です。ウィリアムズ法は新薬開発における用量設定の場面で用いられる統計的手法です。このとき,欠測値(測定が欠けること)が起こることがあります。このような場合にも適用できる理論的方法を研究しています。現在は生物統計分野のデータ分析手法を研究していますが,それと並行して卒業研究のテーマでもある「YouTube上に挙げられている動画視聴データ解析」も継続しています。このような種々のデータを扱った経験を活かして,将来はこれまで以上に幅広い分野のデータに対して理論的に評価し,問題解決を行うコンサルタントやデータアナリストなどの職業に就きたいと考えています。


途上国の貧困問題とSNSでつながる時代

早瀬 玖美子(人間環境学専攻 環境形成科学系 前期課程2年)
研究分野:途上国開発支援

先進国に暮らす私たちは,途上国の貧困に対してどのようにして関心を抱くのでしょうか。私は関心を抱くためのツールとして,SNSに注目しています。例えば,SNSを活用した途上国支援キャンペーンが昨今行われていることをご存知でしょうか。途上国の抱える問題について情報を拡散したり,キャンペーンのハッシュタグをつけて投稿したりする数に応じて,主催団体が支援を行います。このようにキャンペーンをきっかけにして人々が途上国の問題を知り,関心を抱くことが支援につながる可能性について私は研究しています。社会環境コースの授業では専門分野外の本を読むことも多く,広い視野を持って得た知見を自分の研究にフィードバックしています。


[後期課程]

 

社会における「発達障害」概念を探して

谷口 あや(人間発達専攻 心理系 後期課程2年)
研究分野:発達心理学,社会心理学,特別支援教育

発達障害という言葉は近年急速に知られるようになってきましたが,十分な理解が浸透しているとは言い難いのが現状です。こうした中で,言葉だけが独り歩きし,人々が個人の持つ多様な障害認識を「発達障害」という言葉に当てはめてしまう可能性が考えられます。そこで私は,「発達障害」という言葉を人々はどのように捉え,社会的にどのような役割を与えているのか?という問いの下,社会における「発達障害」概念を研究しています。これまで多くの研究は当事者や支援者を対象としてきましたが,共生社会の実現に向けては,社会からの視点も欠かせないものであると考えています。将来的には,支援や教育の場に研究成果を還元できる研究者になることを目指しています。


環境DNAを研究する

徐 寿明(人間環境学専攻 環境基礎科学系 後期課程3年)
研究分野:環境DNA学,分子生態学,保全生態学

水域における非侵襲的かつ効率的な生物モニタリング手法として,「環境DNA分析手法」が近年急速に発展しています。一方で,環境DNAの性質や動態といった基礎的な知見は現状不足しています。こうした環境DNAの基礎情報の理解は,結果の適正な解釈や新たな技術の開発のために極めて重要です。環境DNAとは何なのか,すなわち「環境DNAを研究する」ことが,私の主な研究テーマです。もともと文科系で入学した私が,今では国内外の様々な学会に参加し,国際的な査読誌にも論文を掲載し,生態学者を本格的に志すようになりました。この研究科でなければ,こうした生き方の多様性を受け入れてはくれなかったでしょう。皆さんのご入学を心よりお待ちしています。


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案内パンフレット 『神戸大学大学院人間発達環境学研究科2021』 より