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神戸大学大学院人間発達環境学研究科 大学院生の研究活動2019

ニーズに応える教育の意味とは

呉 文慧 Bunkei Kure(人間発達専攻 こころ系講座 博士課程後期課程2年)

私は特別支援教育やインクルーシブ教育において鍵となっている「個々のニーズに応える教育」という言説の意味を考えています。今までは心理学や社会学の観点から,文献研究を中心にこの問題を考えてきました。しかし,そうして考えた理論が現場で本当に機能するのかわからず,自分の研究に意味があるのか悩んだこともありました。こうした思いから,現在は特別支援学校でフィールドワークを行い,教師が考える子どものニーズと,子ども自身が感じているニーズが相互作用を起こし変化していく姿を観察し,自分の理論の検証と新たな理論の生成を試みています。理論と現場,双方の検討を通じて「ニーズに応える」というのは教師と子どもがともに「ニーズを育てていく」ことなのだと説得力を持って論じられればと思っています。


「かわいい」の効能

岡田 真奈 Mana Okada(人間発達専攻 表現系講座 博士課程前期課程2年)

精神的な豊かさが求められる現代で,「感性」というものがモノづくりの新しい価値として注目されています。そこで私は,人々に親しまれた形容詞「かわいい」に着目し,人が「かわいい」と思ったものに対してどう行動するのか,また「かわいい」と思ったものを見ることで人とのコミュニケーションはどう変わるのかについて,ビデオ観察で研究しています。今まで複数の学会で発表しましたが,本研究は多くの方の関心を呼び,様々な分野の研究者より有意義な助言をいただきました。現在,より大きな場での発表に向け準備しています。研究を通じ得た学際的な視点が,自分の視野を広げてくれることに充実感を覚えています。研究をより面白く有意義なものに出来るよう,更に鋭意努力していきます。


ゲーマーから選手へ: e スポーツクラブの発展史

任 昱霖 Ren Yu Lin(人間発達専攻 からだ系講座 博士課程前期課程2年)

私は,アジア大会やオリンピックにおける競技化が検討されているeスポーツに着目して,中国におけるeスポーツクラブの発展について研究しています。研究の進展と共に,認識可能な世界が広がりました。「世界eスポーツの都」と宣言した上海で調査を行い,eスポーツ研究が専門の大学教授やクラブ運営者と意見を交換しました。またeスポーツ事業を展開する企業での長期インターンシップを通して,人工知能やビッグデータなどの新技術がeスポーツに応用され,発展を促していることを知りました。こうした調査,体験から得られた史料の分析を日々進めています。eスポーツ史研究から得られる好奇心は私の生活に欠かせないものだと感じています。


科学技術の社会問題を考える

都倉 さゆり Sayuri Tokura(人間発達専攻 学び系講座 博士課程前期課程2年)

私の研究テーマは,「科学技術の社会問題」です。例えば,遺伝子組み換え作物,クローン技術という言葉を聞いて,みなさんはどのようなイメージを持つでしょうか。科学技術にはメリットもデメリットもあります。そのため,世の中には様々な意見が存在し,対立や議論がまきおこっています。私たちの研究では,人々の意見を考慮して対立の解決策を考え,意志決定する力を育てるための授業開発と評価を行っています。昨年度は,小学校5年生の総合的な学習の時間に,開発した授業を実施していただきました。現在はデータの分析を進めているところです。私の研究は共同研究で,たくさんの人と関わりながら進めており,先生方,先輩,後輩から日々刺激をいただいています。将来は,小学校教員として働きます。


データの背後にある真の構造を目指して

北川 雄一 Yuichi Kitagawa(人間環境学専攻 数理環境論 博士課程前期課程2年)

私の研究分野は数理統計学で,研究テーマは,「情報量規準による確率モデルの同定」 です。主に,回帰モデルなどといった数理モデルをデータから構成して評価する研究をしています。情報量規準とは,データからモデルを構成する際に,データに即したギザギザなモデルや緩やかな曲線のモデルの中で,どのモデルが予測に適しているかを客観的に評価できる基準のことです。より優れたモデルの構築のために,情報量規準について研究しようというのが私の研究内容です。学生生活では,ワシントン大学シアトル校へ短期留学しました。この留学経験や,在学中に行った金融や AI などに関する研究を生かして,将来は IT 分野に強いアメリカでFintech に携われる仕事に就こうと考えています。


「七変化」なアジサイの形態を探る

縄井 あゆみ Ayumi Nawai(人間環境学専攻 生活環境論 博士課程前期課程2年)

梅雨時期の代表的な植物であるアジサイは六甲山に自生し,「神戸市の花」にも指定されています。私はこのアジサイの資源的価値に着目して,調査研究を始めました。アジサイは別名「七変化」とも呼ばれており,同じ品種でも花の色や形が異なるなど形態は不安定で,未だ名もない不明種があります。このような形態について詳しく把握するため,実際にアジサイ品種の花や葉などの大きさや形,色といった様々な測定や観察を行っているほか,海外の植物標本庫を訪れ,生息地域による形態の多様性も調査しています。多様に変化するアジサイの形態を客観的に明らかにすることで資源的価値の向上を目指し,神戸市らしい地域づくりにも貢献できるようなアジサイの良さを発信していきたいと思います。


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案内パンフレット 『神戸大学大学院人間発達環境学研究科2020』 より