2013年度,人間発達環境学研究科では,共同研究「生活安心指標の考案:質の高い生活を実現する人間環境の総合的アプローチ」を立ち上げ,進めています。人間にとって安心で暮らしやすい生活とはいかなるものか,またそれを実現するためにはどのような条件がいかに満たされなければならないのか,さらにそこでの課題は何かという問題を,「人間発達」およびそれを支える「人間環境」の視点から総合的に検討したうえで,それを可視化する指標を考案することに,その目的があります。
近年,人間の生活のあり方を経済面のみならず社会資本,主観的満足度などのさまざまな観点から根本的に捉えなおそうと議論が活発となっています。国連開発計画UNDPの「人間開発」指標,ブータン政府による「国民総幸福量」,経済開発協力機構OECD「よりよい生活指標」などがその例です。グローバル化の進行にともない不安定な経済構造や,住みにくい生活環境が露呈したことに対する危機感を背景に,従来とは異なる視点からの社会を見直そうという模索が始まったといえます。しかし,これまでの諸議論においては,主体が能動的に思考し行動する「人間発達」という観点は弱いとういのが実態です。
本研究は,自然・社会条件に制約されながらも,それに対して自律的に生きていこうとする主体としての人間へのまなざしを重視して社会科学,人文学,自然科学が重ねてきた研究蓄積をもとに,「人々が安心できる生活」を再考しようという試みです。そして,その検討成果をさらに「生活安心指標」として可視化する作業を行う予定です。