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高度教員養成セミナー 報告
第2回 報告
- 題目
- 教科の学習場面における実践研究の進め方を考える:教科学習心理学の視座から
- 講師
- 吉國秀人(兵庫教育大学准教授)
- 会場
- 鶴甲第2キャンパス E255(高度教員養成プログラム室 移転先)(E棟2階)
- 日時
- 2017年9月8日(金) 17:00~18:30
- 報告
- 本講演では,子どもたちがすでに持っている誤った判断基準に基づいて,教師が教示した正しい概念やルールに対し強い抵抗を示し,その誤りの修正が不十分にとどまってしまうという知的な「つまずき」を,どのように工夫して教授を行えば,子どもたちの知識を組み替えていけるかを解説され,皆で考えた。
例えば,「大名行列」という言葉から「たくさんの大名が列をなして,江戸に向かう事」と誤って理解してしまっている子どもたちがいると仮定する。その誤りに対し,教室に入りきらないくらいの長い巻物を廊下に広げ,「ここに大名は何人いるのか?」という問いかけを行う。そのことで,(1)大名が一人しかいないこと,(2)どのくらいの規模で大名行列が行われたのか,(3)どのような人たちが行列に参加をしたか,等を実物提示のもとで理解でき,誤りの修正と新たな知識の習得が可能となる。本セミナーにおいても,吉國先生が津山郷土博物館「つはく」から拝借された実際の巻物を,廊下に広げ,理解を深めた。
日々の実践の中で浮かび上がってきた問題から研究課題を立ち上げていく,「ボトムアップ的実践研究」の大切さを学んだ。また,実践研究の方法の一つとしてアクション・リサーチ(action research)が挙げられた。
子供に正しい知識を教えること,そしてここで言われているように知的な「つまずき」を正しい形で改めることが教師の務めであると思う。その「つまずき」を教師が経験し,それを正しい形で克服していると,同じ「つまずき」をしている子供達との「会話」がより円滑にできるのではないだろうか。自分自身の中に未だに多くある「つまずき」を克服するモチベーションに繋がるような考え方ができるようになった。(人間発達専攻 M1 寺田栄太)
第3回 報告
- 題目
- 教育実践につながる基礎研究の位置づけの工夫
- 講師
- 辻 弘美(大阪樟蔭女子大学教授)
- 会場
- 鶴甲第2キャンパス E255(高度教員養成プログラム室 移転先)(E棟2階)
- 日時
- 2017年10月20日(金)17:00~18:30
- 報告
- 本セミナーでは,小学校教諭として実践者の経験を経て研究者になられた辻先生から,基礎研究を教育実践に生かしていけるようにするための工夫や,教育現場で子どもを中心としていかに幼稚園や家庭とコミュニケーションしていくかなどについて講話をいただいた。
辻先生は,心的状態語を用いた会話は他者理解の発達を促すことや心的状態語のバリエーションとその発達についてなど研究され,教育現場に還元するための取り組みをされている。その中で,実践研究協力園の現状や実践者の現状を理解し,お互いを尊重すること,また研究で明らかになったことは,実践者に保育で生かせるように伝えたり,保護者へも迅速に研究の意義をわかりやすく伝えたりするなど工夫をされている。また,実践者の視点からの疑問に適切に対応していくことで,研究者にとっても実践者にとっても新たな課題の発見につながるというシナジー効果が得られたことを具体例を挙げてお話いただいた。また,研究をするにあたっては,なぜ研究が必要なのか問題意識をもち,いかにして問題にアプローチするのか,妥当性はどうかなどについて,迷うことも大切であること,そして研究を振り返る必要性,研究をオープンにして様々な分野の方から意見を聞くことが新たな気付きになり,次への課題が生まれ,さらに研究へとつながっていくことを教えていただいた。
これから実践者として研究を進めていく上で,実践に広く生かしていけるように,そして保護者にその意義を迅速に伝えていけるようにしていくことが大切であると感じた。また,研究をし発表することが大切なのではなく,実践についてまとめ,言葉にしていくことで自ら振り返ることが,子どもを見る目につながり,実践に返していくことができ,自分のためにもつながることを感じられた。言葉でまとめ,伝えていく大変さはあるが,その大事さを改めて考える機会となった。
また,研究内容の紹介でいただいた冊子において「『気持ちをあらわす言葉』を育むヒント」において,子どもが"こころ"が動かす体験をし,大人がその"こころの動き"を感じ取って共感し,また子どもの表現を他者に共有できるように支えることが大切であることが書かれており,今後教員としてどう援助したらよいのか考える機会になった。(人間発達専攻 M1 沼田祥子)
第4回 報告
- 題目
- 学校管理下の災害の年次推移と,校種別に傷病の予防を考える
- 講師
- 笠次良爾(奈良教育大学教授)
- 会場
- 鶴甲第2キャンパス E255(E棟2階)
- 日時
- 2017年11月17日(金)17:00〜18:30
- 報告
- 本講演では, 学校管理下の災害や校種の特性を踏まえた傷病予防のあり方について,災害の年次推移や子どもの発育に関する様々なデータや研究結果をもとに解説された。 講演の概要は,1)学校園における児童生徒の傷病の現状,2)子どもの運動器の発育の特徴,3)校種別の特徴に合わせたケガ予防の考え方,である。
子どもの発育と傷害との関係について,特に発育が急速に進む思春期に焦点をあて,骨長と骨密度,筋及び腱の発育速度のピークにずれがあるこの時期に傷害が多く発生することを,データをもとに確認した。また,幼児期の遊び環境作りにおけるリスク(子どもが予測できる危険)とハザード(子どもが予測できない危険)の考え方や,ケガにつながりやすい運動動作の特徴などをご紹介いただき,ケガの予防と安全教育のあり方について考えることができた。
子どもの発育に関するあらゆるデータから,その背景にある子どもたちの行動や変化を読み取りながら議論をすることができた。基礎的なデータを積み上げてエビデンスを示していくことの重要性が理解できたとともに,そういったデータに基づいて,どのように教育実践や社会の取り組みに結びつけていくのかを考えることのできる講演となった。(人間発達専攻 M2 佐野孝)
第5回 報告
- 題目
- 国語科授業における教師の実践的知識
- 講師
- 松崎正治(同志社女子大学教授)
- 会場
- 鶴甲第2キャンパス F255(F棟2階)
- 日時
- 2018年1月19日(金)17:00~18:30
- 報告
- 本講演では,ある小学校教師の国語科授業およびその授業の検討会を事例として,教師がどのように実践的知識を使ったり身につけたりしていくのかについて解説された。講演の概要は(1)PCK(授業と学びに翻案した教科内容の知識),(2)研究方法,(3)文学教育と道徳教育の違い,である。
教科の内容知識を授業の学びの過程に翻案した知識をショーマンは「授業と学びに翻案した教科内容の知識(Pedagogical Content Knowledge PCK)」と呼び,教師の専門職性の中核をなすものと定位した。本講演ではこのPCKが重要なポイントとして挙げられていた。
本講演で解説された研究授業は,5年にわたって校内研修会に松崎先生が講師として参加している(=研究者と実践者の関係が深い)小学校で行われた。授業の構想段階から授業検討会まで実践者と関わることで,として何が有効に機能していて,何がうまく機能していないのかを検討してみると,今回の研究授業の場合では,PCKが一番不足していることが明らかになった。研究授業で扱われたのは、ともすると道徳教育に陥る可能性がある作品(新美南吉の『二ひきの蛙』)である。『二ひきの蛙』は投げ込み教材であるが,国語教科書に掲載されている作品にも道徳的な教えが書かれているものもある。改めてそのような作品を国語の授業で扱うことの難しさを感じた。一方で徳目を教えることになりかねない教材でも,対比や言葉の意味、比喩等に着目したり,作者の経歴を踏まえたりするといった視点から作品を捉えることで国語科の授業として成立することが分かった。国語科に限らず,どの教科でもこの教材を扱う目的は何なのか,その教科でやるのに相応しい内容であるのかということを熟考しなければならないことが示唆された。
実際に行われた授業の映像を見ながら解説をしていただくことで,上記の内容についてより理解を深めることができた。本講演全体を通して研究者と実践者が手を取り共に学び合うこと,そしてその過程で教師が実践的知識を身につけていくことにより子どもの学びを保障する、その重要性について考えることのできる機会となった。(人間発達専攻 M2 中村瑞穂)