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研究道場特別講義 報告

「カリキュラム・デザインの理論と実践:新学習指導要領の「総合的な学習の時間」を事例として」報告

講師
河野麻沙美(上越教育大学准教授)
日時
2018年5月8日(火)13:20~14:50
会場
鶴甲第2キャンパス B202(B棟2階)
報告
本講義では,教育方法学・授業研究をご専門にされている河野麻沙美先生にお越し頂き,「カリキュラム・デザインの理論と実践:新学習指導要領の「総合的な学習の時間」を事例として」というタイトルでお話を伺った。講義では,学習指導要領上における総合的な学習の時間の位置づけに関して説明を行い,その後,総合的な学習の時間の指導計画及び年間指導計画の立て方に関してお話を頂いた。これらのお話は,単なる理論として講義するのではなく,実際の教育現場における総合的な学習の時間の事例や,受講生が経験してきた総合的な学習の時間の活動内容の事例を踏まえつつ行って頂いた。
 総合的な学習の時間の最も大きな特徴は他の教科と異なり,目標の具体化や学習内容の設定が各学校に委ねられており,教科書などが存在しないことである。従って,総合的な学習では,教科横断的な学びを行うことができるという特徴も挙げられる。この特徴を踏まえ,総合的な学習の時間では,その探求の過程において児童・生徒が自ら探求課題の設定を行うことができるようなカリキュラム・デザインが多い。しかしながら,実際には修学旅行や校外学習などの事前指導や,進度が遅れている科目や入試問題を解くなどの自習に総合的な学習の時間を割り当てられることが多いという現状がある。
 このように,本講義では,総合的な学習の時間のカリキュラム・デザインに関して,その実態を知ることができた。報告者は授業デザインの研究を行っており,その内容として総合的な学習の時間に近い扱いになり得るものであるため,本講義は今後研究を進める上で非常に参考になる有意義なものであった。(人間発達専攻 M2 若林和也)

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「糸賀一雄の最後の講義ー愛と共感の教育ー」を考えるー時代・世代・国をこえてー 報告

講師
中野 リン (香港中文大学日本研究学科)
増野 隼人 (社会福祉法人びわこ学園)
黒川 真友 (全国障害者問題研究会)
日時
2018年9月17日 (月) 13:00~16:30
会場
ピアザ淡海 207室
報告
本講義では,3名の先生からお話を伺った。中野リン先生による『糸賀 一雄の最後の講義』の英訳を通して考える,増野隼人先生による,医療的ケア児であるAくんの相談支援を通じて考える,黒川真友先生による『愛と共感の教育』を成人期の若手実践者はどう読んだのかについて丁寧に講義していただいた。特に興味深かったのは,成人期施設職員との学習会において若手実践者が「愛と共感の教育」をどう読んだのかについてであった。参加者の中での次のような言葉が印象的であった。・現場の前提がこの時代とは違うんじゃないかと思ってしまう。そうしたなかで糸賀が言うことをやらないと,と思うとハードルが高い。言っていることは大事だとは思うが,伝えていくことはむずかしいし,自分自身がこの言葉を噛み砕けていない。・異質なものとして理解できないままだと危険。共感できることを信じることができることは大切。そうじゃないと実践は始まらない。これら若手実践者の考えを知ると,糸賀が共感の世界を訴えていることの意味が伝わってくる。「心身障害とか,精神薄弱とかいわれる人々とわたしたちが,実は根が一つなんだ,本当に発達観から見て根っ子が一つだという共感の世界を,理屈の上でもせめて共感の世界というものの根拠があることを,わたしたちは知りたいと思います。」糸賀一雄の「愛と共感の教育」は,「成人の障害者施設で働くことで,自分も一緒に成長でると思った。」と,若手実践者を導いていっているということを学んだ。 (人間発達専攻 名村洋子)

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生の合一としての平和 -フリードリヒ・フレーベルの「人間の教育」における隠れたカリキュラムとしての平和教育- 報告

講師
カール・ノイマン(ブラウンシュヴァイク工科大学名誉教授,国際フレーベル学会名誉会長)
日時
2018年9月12日(水)10:00~11:30
会場
鶴甲第2キャンパス A427(A棟4階)
報告
今日,世界情勢は混迷の度を深め,宗教や文化の違いによる対立や移民の問題,そしてそれを解決するための争いや暴力が絶えず繰り返されている。本講演では,このような今日の「平和なき世界」において,いかにして平和を実現し得るのかという問題について考えるにあたり,幼稚園の創始者として知られるフレードリヒ・フレーベルの教育哲学に解決の糸口を求めた。
ノイマン教授は,フレーベルが長年追求してきた「生の合一」という理想とその実践の中からは,平和の実現のための様々な提案を見出すことができる,と彼の思想を評価する。フレーベルは,「政治的なもの」に支配された社会において「人間性の危機」を意識し,人や世界との繋がりを感じ取る場,すなわち平和な世界の秩序を経験する場としての「遊び」の重要性を主張したのである。
一般にフレーベルと聞くとすぐに幼児教育を思い浮かべ,平和教育と関連付けて考えることはあまりないように思われる。そんな中で本講演は,フレーベルの思想を「平和」というテーマから読み解くことによって,平和を実現する上での教育の重要性を再確認するとともに,「平和教育」というものが,単に「平和」について学ぶだけのものではなく,平和を生み出し,維持する能力の獲得を,教育全体を通して目指すものでなくてはならないということに気付かされる、非常に貴重な機会となった。  (人間発達専攻 M1 大和あさひ)

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AI時代におけるSTEM教育とその実践:東京学芸大こども未来研究所におけるSTEM教育プロジェクトの実践を通して 報告

講師
大谷 忠(東京学芸大学准教授)
日時
2018年10月11日(木)13:20~14:50
会場
鶴甲第2キャンパス B210(B棟2階)
報告
本研究道場では,大谷忠先生に「AI時代におけるSTEM教育とその実践:東京学芸大こども未来研究所におけるSTEM教育プロジェクトの実践を通して」というテーマでご講演いただいた。STEM教育とはScience, Technology, Engineering and Mathematicsの略称であり,もともとはアメリカで始まった考え方である。
現在日本では,engineeringの部分である「工学・技術」の教育が十分ではない。また,2015年にオックスフォード大学のマイケル A. オズボーン准教授によって「現存する49%の仕事がロボットと人工知能(AI)に奪われる」と発表された通り,これからの時代は,人間だからこそできることが求められている。
大谷先生は,講演の中で,人間にしかできないこととして「課題設定」をあげられた。遊び場,学校,学校外,という三つの空間でEngineeringに基づいて「S」「T」「M」について知りたくなるきっかけをつくり,学び,知る,というサイクルが大切だそうで,具体的な取り組みを紹介してくださった。その中でも特に印象的だったのが,おもちゃ王国と協力している「STEM QUEST スタジアム」という活動である。この企画に参加する子供たちは,星を開拓するというテーマのもとでさまざまなミッションを達成するためにengineeringを使わなければなければならない。動画では子供たちが試行錯誤しながら熱中している様子が見られた。遊びの中でSTEMを知り,挑戦してみたくなる仕組みはとても魅力的であった。その他にも,電池,モータ,導線,ギヤ,フレームなど31種類のパーツから構成されている,学校教材用の「TECH未来BASIC」をつかって問題解決能力を高める取り組みや活用力コンテストなどの取り組みを知ることができた。
本講義を受けることで,将来子供と関わる際にどのようにSTEM教育を充実させていくべきかについて考えるきっかけとなり,大変勉強になった。(人間発達専攻 M1 都倉さゆり)

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学習評価のこれから~全国学力学習状況調査や大学入試テストは資質・能力を測定できているのか~ 報告

講師
益川 弘如(聖心女子大学教授)
日時
2018年10月22日(月)15:10~16:40
会場
鶴甲第2キャンパス D-room(A棟1階)
報告
 本研究道場では,益川弘如先生に「学習評価のこれから?全国学力学習状況調査や大学入試テストは資質・能力を測定できているのか?」というテーマでご講演いただいた。
 講演内では,まず初めに平成27年度の大学入試センター試験(現代文)を1問実際に解き,それを題材として学習評価について考察した。大学入試については,2020年度の学習指導要領の改訂と同時に,従来のセンター試験に変わって,記述式問題なども取り入れた「大学入学共通テスト」が実施される予定である。この大学入試改革の背景には,新学習指導要領において,これからの知識基盤社会において必要な資質能力として「生きてはたらく知識・技能の習得」「未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力等の育成」「学びを人生や社会に生かそうとする力・人間性の涵養」が挙げられたことがある。そこで,大学入試においても記述式問題を加えることで,「知識・技能」に加えて「思考力・判断力・表現力」を評価することが目指されたのである。
 益川先生らの研究では,思考発話法を用いて従来のセンター試験の形式である選択式問題の解決プロセスを調査したところ,得点の高い生徒であっても,その解決のプロセスや,解答するために使われた知識は,出題者が意図したものとはことなっていたことが示された。例えば,出題者は文章全体の流れを把握し,内容が理解できているかを問うことを意図していたが,解答者は文章の一部分だけを読み,全体のストーリーを意識しないまま消去法によって正答にたどり着いてしまう,といったことである。
 現代の学歴社会では,子どもたちの学ぶ動機は,「テストでいい点を取る」ことになってしまいがちである。また,そうでないにしても,児童生徒にとってテストは大きな意味を持つものであり,そのテストの在り方は児童生徒の学ぶ姿勢を左右する要因となる。今回の講演は,学習評価の在り方について考え直すだけでなく,学習を「評価」することの困難さや,既存の評価の枠組みに教育の在り方までもが規定されてしまっているという危険性に気付かされる,非常に貴重な機会となった。 (人間発達専攻 M1 大和あさひ)

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博物館におけるサイエンスコミュニケーション~博物館職員のための視点~ 報告

講師
小川 義和(国立科学博物館 連携推進・学習センター長)
日時
2018年10月24日(水)15:00~16:40
会場
鶴甲第2キャンパス D-room(A棟1階)
報告
本研究道場特別講義では,科学教育・博物館教育・サイエンスコミュニケ-ション研究分野において著名な国立科学博物館の小川義和先生をお招きし,「博物館におけるサイエンスコミュニケーション~博物館職員のための視点~」という題目で講演していただいた。ご講演では,サイエンスコミュニケーションの背景,小川先生がこれまで実際に取り組んでこられた事例,実際に国立科学博物館において行われている学芸員やボランティアへの研修プログラムの内容などを踏まえながら,博物館におけるサイエンスコミュニ―ケーションに関してお話を伺った。
 サイエンスコミュニケーションは,1960~90年代における科学技術振興や興味関心の涵養といったいわば科学者・技術者の養成や公衆の科学理解増進に力の入れていた時代から進み,現代社会における科学技術の在り方を市民も参加して合意形成していくという対話型の考えの下,2000年前後から顕著に発展してきた。平成23年版科学技術白書によると,「政府,研究機関,教育機関,学協会,科学館,企業,NPO法人等の団体,研究者・技術者,国民・住民の間で交わされる科学技術に関するコミュニケーション活動」と定義されている。以上のような様々なコミュニティの内外や間において,サイエンスコミュニケーション活動は行われるのである。
 博物館におけるサイエンスコミュニケーションでは,標本資料や展示物を媒介として,学芸員やボランティア(見せる側)と来館者・参加者(見る側)の間のコミュニケーションが成立する。しかし,コミュニケーションである以上,見せる側によるメッセージと見る側が展示から受け取るメッセージとが異なる場合も多くある。サイエンスコミュニケーションを洗練していくためには,そのようなズレを来館者・参加者からのフィードバックを通して認知していくと共に,展示側と来館者・対象者側それぞれの文脈を整理し,事実と推論の峻別や来館者・参加者の経験・知識へ配慮したプログラム設定が必要である。
 本講義を受けることで,近年ますます必要とされているサイエンスコミュニケーションについて知ることができ,さらに,博物館におけるサイエンスコミュニケーションを博物館職員側の視点から考えることのできる貴重な機会となった。(人間発達専攻 M1 西海直希)

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インストラクショナルデザインプロセスにおけるアクティブラーニング 報告

講師
渡辺 雄貴(東京理科大学准教授)
日時
2018年11月8日(木)15:10~16:40
会場
鶴甲第2キャンパス A427(A棟4階)
報告
 本研究道場では,東京理科大学において教育工学,インストラクショナルデザインを専門とする渡辺雄貴先生をお招きし,「インストラクショナルデザインプロセスにおけるアクティブラーニング」という題目で講演していただいた。
 インストラクショナルデザインとは,教育方法の基礎的理論,授業設計のことであり,教育活動において効果・効率・魅力を高めることを重視する。このような効果・効率・魅力を高めるためには,授業設計において学習目標を明確にする必要がある。そして,学習目標を明確に設定したうえで,授業をデザインする。その際例えば,授業を,分析・設計・開発・実施・評価にわけそれぞれのフェーズからフィードバックを行うADDIEモデルは授業のデザインに役立つ。
 以上がインストラクショナルデザインの考え方であるが,それをもとに渡辺先生はアクティブラーニングについて,目的と方法を分けて考えることの重要性を強調された。すなわち,アクティブラーニングを行うことそのものは目的ではなく,まず学習者に到達させたい目標(21世紀型スキル)があり,その目標達成のために適切な授業設計を行うということである。アクティブラーニングはあくまで高次な思考活動を行う手段である。高次な思考活動を行う前提として,基礎的な知識は必須である。知識の教授は,従来の典型的な学びである講義型が効率がよい。それならば,例えば講義型の授業とアクティブラーニングを併用するなど,アクティブラーニング型授業の設計が考えられる。このように,目的と方法を分けて考えることで,アクティブラーニングの適切な活用が見えてくる。
 本研究道場は,学習指導要領の改訂に伴い,授業設計などが複雑さを増す今日,アクティブラーニングをどのように設計するのかという具体的な示唆をいただき,大変貴重な機会となった。(人間発達専攻 M1 松山航平)

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大規模調査の視点で見た新学習指導要領 報告

講師
中山 迅(宮崎大学大学院教育学研究科教授)
日時
2018年11月15日(木)08:50~10:20
会場
鶴甲第2キャンパス B202(B棟2階)
報告
「TIMSSとPISAの視点で見た新学習指導要領」というテーマで,中山迅先生(宮崎大学大学院教育学研究科)のお話を伺った。講義ではまず空気鉄砲の教具の紹介を通して,理科授業における活動が子どもの科学的な思考を深めることにつながることの大切さを示された。つづいて学習指導要領等の方向性を確認した。大きな方向性として,資質・能力の育成が挙げられることを確認した後,理科を通してどのような資質・能力を育てるべきかについて,国際的な大規模調査(TIMSS,PISA)から検討していった。
 講義では,TIMSS2015の調査において,日本の児童・生徒の順位が高い問題と,低い問題がそれぞれ複数提示された。それらの問題を分析することで,日本の児童・生徒の強みと弱みを学生自らがそれぞれ考察した。様々な考察が交流されたのち,中山先生の考察が示された。それによると,日本の順位が高い問題の共通点は,「履修済の知識を使用して回答できる問題」,「具体的な現象と結び付いた問題」である。一方日本の順位が低い問題の共通点は,「未履修の概念を使用する問題」「目に見えない抽象的概念に関する問題」「『システム』としての見方を要求する問題」であるという。特に臓器の問題(G8-1)に代表されるように,臓器1つ1つについては詳しく勉強するものの,システム的には学ぶ機会が現在の理科教育の中では非常に少ないことが指摘された。
 これらの大規模調査から見えてきた日本の児童・生徒の強みと弱みを活かした理科授業が今後求められることをお話いただいた。(人間発達専攻 M1 赤川峰大)

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未来を拓く次世代に必要な理科教育とは何か ~“Socio-scientific Issues”に着目して~ 報告

講師
野添 生(宮崎大学准教授)
日時
2018年11月20日(火)15:10~16:40
会場
鶴甲第2キャンパス A427(A棟4階)
報告
 本研究道場では,野添生先生に「未来を拓く次世代に必要な理科教育とは何か?“Socio-scientific Issues”に着目して?」というテーマでご講演いただいた。
 講演は,(1)何故,今の日本で“SSI”が必要なのか,(2)“SSI”の歴史的展開と概念規定,(3)“SSI”の具体的な教授方略,(4)日本の理科授業の事例,という順序で進められた。その概要は以下の通りである。
 “SSI”とは,「主として最先端の科学的知識を基盤している」「意見の形成や個人・社会レベルでの選択を含む」「政治的・社会的な枠組みにおける局面を取り上げる」といった性質を持っており,市民が社会に関わり参画するための科学的要素に力点が置かる,シティズンシップの要素が強いものである。
 従来の学校教育の理科で育成される力は,「科学者・技術者の文脈における科学的な問い」を解決することに主眼が置かれており,「社会や市民の文脈における科学的な問い」を解決する力の育成は,理科の対象ではなかった。そんな中で,「判断に関わる問い」の要素を兼ね備えた“SSI”は学校教育を通じてより良い社会を創るという視点も包摂しており,その教育的効果が期待されていることが確認された。また,本講演では実際の学校現場での実践事例(草津温泉の中和事業について)や,実際の生徒の記述解答例などを踏まえてご説明いただき,SSIについて具体的なイメージをもって理解を深めることができた。
 近年,「学ぶことの意味がわからない」「将来どう役に立つのかわからない」といった声を上げる児童生徒が増えていると言われているが,今回学んだSSIは,そういった子どもたちが学ぶことの意義を感じられるような教育を創り上げる上で非常に大きな役割を果たすことができるものだろう。今回の講演は,今後ますますその効果が期待されるようになるであろうSSIについて理解を深めることのできた,非常に貴重な機会となった。 (人間発達専攻 M1 大和あさひ)

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