「マスターズ甲子園って,甲子園に出た選手だけの大会ですか?」
2004年,第1回大会を始動した当時は,この質問が神戸大学発達科学部内の研究室に置いた大会事務局に対しかなり多く寄せられた。「いいえ,高校時代の甲子園出場・非出場は関係ありませんよ。甲子園に出られなかった人達も,もう一度甲子園を目指すための大会です。」と説明すると,「本当ですか!?」という弾んだ声の後,次の質問が勢い良く返ってきた。「どうしたら出られますか?」
全国には推計200万人の元・高校球児がいる。しかしそのほとんどは,高校野球部時代に,憧れの地を踏めなかった甲子園非出場者である。マスターズ甲子園は,全国の高校野球のOBやOGが,性別,世代,甲子園出場・非出場,元プロ・アマチュア等のキャリアを越えて,出身校別に同窓会チームを結成し,全員共通の憧れであり,野球の原点でもあった甲子園球場を,再度目指そうとする大会である。神戸大学発達科学部が創造する「フィールド・オブ・ドリームス」として,全国の元高校球児による各地域でのOB/OG野球クラブの活性化,生涯スポーツとしての野球文化の発展,熟年(マスターズ)世代と共に高校野球児を含めたユース世代にも応援メッセージを発信しながら,活力と夢に満ちた個人・地域・社会・未来への創造と発展に寄与していくことを目指し,神戸大学発達科学部の教員と学生が中心となって始動した。
2004年の第1回大会では,千葉県,山口県,愛媛県,熊本県の4県の予選大会(総勢82校)からスタートし,この第1回大会から2014年の第11回大会の間,地方予選大会には34都道府県が加盟し,計489校が登録,参加選手数は1万8千人を超える規模となっている。その中で予選大会を勝ち上がり夢舞台・甲子園の土を踏んだ選手数は5553人。そのうちの実に4795人は,高校時代には甲子園出場の夢を果たせなかった甲子園デビュー組となる。また,これまでのマスターズ甲子園出場校84校のうち26校は,現役も未だ出場しておらず,高校創設後初となる正真正銘の甲子園初出場校を生み出した。
本大会は,日本でも有数のスポーツ資源である「甲子園球場」と連携し,イベント開発を通じたスポーツ文化振興やジェロントロジー(加齢発達学)に関わる教育と研究の実践プロジェクトとしても展開している。主に神戸大学発達科学部の教員・大学院生・学部生が中核となった実行委員会委員,運営委員会員,ボランティア組織を設立し,大会支援基盤の組織全体が拡充している。現在までのマスターズ甲子園の継続開催は,特にボランティアの熱意によって生み出されており,そのボランティアの中心は神戸大学発達科学部の学生達である。神戸大学の発達科学部内にある全国高校野球OBクラブ連合事務局とマスターズ甲子園大会事務局は学生スタッフが運営し,大会当日までは,神戸大他学部や他大学からの学生達,また卒業生らも事務局を訪れ,一年に一度の夢舞台を創り上げる壮絶なエネルギーに溢れる。そして大会当日には甲子園球場を学生スタッフが駆けめぐり,約800人の大会ボランティアをリードしながら夢舞台が作られていく。「おじさんたちの涙が見たい」,ある学生が第1回大会を始動する際に事務局で発した言葉であるが,大人の長年の夢を支える若者の力と想いから我々教員も多くを学ぶ。学生と教員が一体となった始動したこの神大発達発信のプロジェクトは,毎年11月第3土日に「秋の甲子園」として夢の続投を続けていく。