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高度教員養成セミナー 報告

第2回 報告


題目
幼保連携型認定こども園教育・保育要領の改訂と今後の認定こども園の目指すもの
講師
無藤 隆(白梅学園大学教授)
会場
ラッセホール 2階「ローズサルーン」
日時
2016年8月27日(土)13:00~17:00
報告
現在,日本には主に3種類の幼児教育施設が存在する。いずれも(私学助成による幼稚園を例外として)すべて子ども・子育て支援制度の中に包括され,国として内閣府が取り扱っているが,幼稚園の所管は文部科学省,保育所の所管は厚生労働省,幼保連携型認定こども園は内閣府が文部科学省・厚生労働省と共に所管する仕組みとなっている。認定こども園は,幼稚園の機能と保育所の機能を合わせたものであり,この制度の中核をなすものである。制度発足の二年次目の2016年4月時点で4000園ほどとなっている。今後5年から10年は少なくとも,この3種のタイプの幼児教育施設が併存することになるだろう。
認定こども園の理念は「地域のすべての乳幼児とその家庭のために存在する」ということである。その目指すものは,①預かる子どもに対して教育(幼児期の学校教育)と保育(保育を必要とする子どもの保育)を一体的に行うこと,②地域の保護者とその子どものニューズのすべてに一園としてできる限り応じること,③子育ての支援の拡充である。
幼稚園も保育所も認定こども園も幼児教育としての理念は共通である。親の就労状況に関わらず,どの子どもであろうと,どの園に通おうと,すべての子どもが教育・保育の一体となった幼児教育を受けることは,子どもの教育の権利保障である。よって,認定こども園の役割の一つに,その考え方や実践のあり方をすべての幼稚園,保育所に広げていくことが挙げられよう。
どの園であれ,それぞれ独自の歴史や理念が存在する。さらに,公私による違いも存在する。そのような現状の中で,兵庫県は全国で初めて,幼保や公私の壁を越えて,乳幼児教育・保育施設全体が一丸となり子どもの育ちを支えていこうという取組を行っている。歴史も伝統も違う様々な立場の人たちが協力することには困難も伴う。しかし,兵庫県において立場を超えた連携は実践を豊かなものにしていく良い機会となるだろう。子どもを中心に置き,認定こども園が先頭に立ち,施設同士が違いを尊重しあいながら,実りある連携のあり方を探っていくことが今後重要であろう。(人間発達専攻M1 清山 莉奈)

第3回 報告


題目
人間発達研究の創出と展開 ~発達保障実践を拓くために~
講師
中村隆一 (立命館大学教授・人間発達研究所所長)
会場
神戸大学附属特別支援学校「生活訓練棟」
日時
2016年8月27日(土)13:30~16:30
報告
本講演では,冒頭に,50年前の近江学園における1~3歳台の子どもたちの生活の様子や発達の姿を記録した「一次元の子どもたち」を視聴したのちに,どのようにして人間発達研究が創出され展開してきているのか,発達保障実践をどのように拓くのかということについて報告された。報告内容は,大まかに次の3点である。(1)階層―段階理論:発達の支援に開かれた理論である知能指数や発達年齢,発達段階だけでは,発達の変化を記述や実態の把握,その発達の変化を説明することができないため,発達観を新たに構築する必要があった。(2)目標と目的:実践では,対象者といかにして目的を共有することができるのか手立てを工夫する必要がある。(3)今後の発達保障実践:受精から死に至る人間発達の全過程を取り扱っている階層―段階理論は,障害のある場合の実践の出発から,障害のない場合での妥当性の検討もくぐった議論の展開を行う。
本講演を通して,発達の理論化や実践での対象者との関係づくりについて学ぶことができた。人間の発達を保障するためには,発達は絶えず変化するということを明らかにすることがやはり必要であると痛感した。それだけでなく,障害のある場合の実践の出発から今後障害のない場合での妥当性を検討することがすべての発達保障につながっていくため,自身の研究における青年期の自分づくりにおいても,発達の理論を踏まえながら丁寧な参与観察を行っていきたい。また,実践での関係づくりでは,自分の視点で捉えるのではなく,相手の視点に立って考えていかなければならないと再認識した。(人間発達専攻 学び系A M2 下木なつみ)

第4回 報告


題目
次期教育課程において求められる統計指導について ~アクティブ・ラーニングに応えられる教材・授業展開~
講師
青山和裕 (愛知教育大学准教授)
会場
神戸大学 発達科学部 A427(A棟4階)
日時
2016年9月20日(火)15:10〜16:40
報告
本日のセミナーでは,「次期教育課程における統計に関する指導内容について」という題で,愛知教育大学の青山先生にご講演いただいた。
日本においては現在,ゆとり教育や知識詰め込み型教育への反省から,教育課程が大きく見直されている。これによる学習指導要領の改定に伴い,子ども達が未知の問題に対処し解決していく能力などを育てるために,アクティブ・ラーニングなどの導入がはじまっている。このアクティブ・ラーニングの一環として,算数及び数学教育に教育内容として3年前から導入されている「統計」に関する内容をご紹介いただいた。
アクティブ・ラーニングの視点から統計を捉えた時に,統計を学ぶ意義として,実社会で生活していく中で様々な形で統計資料を目にする機会がある,といったことが挙げられる。新聞や報道番組で目にする社会調査,企業の商品広告から,交通事故の都道府県別発生件数など,統計資料は我々の周囲に溢れている。膨大な一次資料のデータを,我々が理解しやすいように整頓された統計資料は,まさに百聞は一見にしかず,我々に瞬時に情報を伝えてくれる。しかしながら統計資料は,わかりやすく正確な情報を伝えるだけでなく,時に魅せ方一つで人を欺くようなこともある。そのようなことが新聞やニュースでも平気で行われる現代において,目の前に出されたデータが信用に値するかどうか,そしてそれが実生活においてどんな意味を持つのかを,学校現場において育むことが求められている。
今回の講演の中でも,ワークショップの形で,実際に中学生が体験しているような,データカードを用いたアクティブ・ラーニングを体験した。統計資料が魅せ方一つであるように,算数・数学の授業も単純作業・暗記作業ではなく,授業の方法一つで子ども達にこういった社会で求められている・必要である力を伸ばすことができると考える。(人間発達専攻 M1 森大地)

第5回 報告


題目
よい体育授業の構造と指導の手立て~授業分析と授業省察の実践~
講師
長谷川悦示 (筑波大学体育系准教授)
会場
神戸大学 発達科学部 F253(F棟2階)
日時
2016年10月21日(金)17:00~
報告
本講演では,「よい体育授業とは?」という問いを軸に,体育授業の構造や指導方法,授業分析や省察の方法,教師に必要とされるスキルなどについて解説された。講演の概要は,1)体育科教育学の研究領域,2)よい体育授業の構造と指導の手立て,3)体育授業のための授業分析の方法,4)体育授業のための教師の知識と省察,5)小学校体育授業での取り組み,である。
よい体育授業の構造と指導の手立てでは,体育授業における「わかる」「かかわり合う」「できる」の3つに焦点を当て,それぞれの内容をおさえた上で,その充実のためにどういった手立てがあるかについて考えた。また,体育授業を分析する立場から,学習時間に着目した分析方法や,体育教師のPCK (Pedagogical Content Knowledge:「指導内容」「指導方法」「学習者」「指導環境」に関する知識)を踏まえた教授行動の評価基準などをご紹介いただいた。
実際の小学校授業での取り組み事例も交えながら,よい体育授業のための指導の手立てや授業分析のあり方について具体的に理解することができた。そして,参加学生自身の過去の体育授業での体験,運動経験,あるいは現在運動指導をする中で感じている問題意識をシェアすることで,今後,自分自身が研究者や教員として体育授業をどのように捉え, 実践していくのかを見つめ直すきっかけとなる講演となった。(人間発達専攻 M1 佐野孝)

第6回 報告


題目
舞鶴市次世代育成ビジョン~地域の教育研究の中核を担う高度教員と公務員の連携の在り方を考える~
講師
飯田美和 (舞鶴市 健康・子ども部 幼稚園・保育所課 舞鶴幼稚園副園長)
芦田みゆき(舞鶴市 健康・子ども部 幼稚園・保育所課 乳幼児教育推進係)
会場
神戸大学 発達科学部 F253(F棟2階)
日時
2016年12月16日(金)17:00~18:30
報告
本講演では,全国的に注目されている舞鶴市の乳幼児教育ビジョン推進事業について,現場の専門職と行政双方の立場からそれぞれ講話を頂いた。地域の保育所,幼稚園,小・中学校の連携の方法やビジョン作成の背景やプロセスなどについて学び,地域の教育研究の中核を担う高度な教員や公務員として必要な資質と能力について理解を深められた。質の高い教育を提供するために,現場と行政が一体となって推進された事業のプロセスを知る事ができ,自らが教員として現場に出た際,どのように課題に取り組んでいくべきなのかについて考えることができた。
舞鶴市の取り組みは耳にすることが多かったが,実際にどのような経緯でどのようなプロセスを経て実現に至ったかという部分を知ることで,これから社会に出ていく身として自らの立場でどう課題に対応していくかを考えさせられた。特に事業推進のための予算を確保するために相手に分かりやすく主張を伝えることに関しては,かなりの苦労と努力をされたことが伺えた。このようなスキルは,何事にも必要であるし,自ら主体性を発揮し熱意を持って試行錯誤を繰り返していく継続的な姿勢の重要性を学んだ。
また,教員として現場にいながらも全体として教育を捉え,枠組みを超えた連携のもとで実践研究を行っていくことの重要性と意義を改めて感じることができた。同時に自らもそのような意義を生み出していく一員であらねばならないと思った。(人間発達専攻 M2 伊藤奈月)

第7回 報告


題目
子どもが見いだし説明する過程を重視した算数・数学の授業
講師
近藤裕(奈良教育大学教授)
会場
神戸大学 発達科学部 A323(A棟3階)
日時
2017年1月20日(金)17:00~
報告
近藤教授は12年間の公立小中学校での教職経験を経て研究者になられた方であり,現場に密着した自身の研究の概要について,資料を駆使してわかりやすく話していただいた。
「私の研究を支えるもの」というテーマで以下の3点についてお話しがあった。
(1)「子どもの発達を△,○,◎でとらえて高める」という見方・考え方 ~「認知発達研究」から~:近藤教授が座右の書としている小関煕純編著「図形の論証指導」から得た視点であり,子どもの説明の能力を「△根拠をあげずに」→「○何かしらの根拠をあげて」→「◎数や図形の定義や性質を根拠にして」という発達段階で捉えて指導に生かしていこうとする考え方である。この考え方によって個に応じての指導が明確になるのである。
(2)「何のための○○教育か」という意識 ~「算数・数学の力」の研究から~:長崎栄三氏の研究等から,算数・数学で育てるべき力を明確に規定して学習指導に取り組むという考え方を示された。○○教育の部分はそれぞれの専門教科をあてはめて考えていくべきである。
(3)「出会った子どものリアルな姿」のイメージ ~私の教育実践の経験と仲間たちの授業参観から~:近藤教授は,実際の授業場面や,児童の書いたものから,子どもの発達をリアルに捉えて,調査問題や授業実践という研究を進められている。
以上,近藤教授の研究を支えるものを3点にわたり講演いただいたことで,受講した学生にとっても今後の研究を進めていくための視点や情熱について示唆を得たのではないかと考える。(人間発達専攻 M2 佐伯源太郎)