本ウェブサイトは2022年3月末をもって閉鎖いたしました。このページに掲載している内容は閉鎖時点のものです(2022年3月)。

研究道場特別講義 報告

「戦後小学校理科教育の成立過程について」報告

講師
柴 一実(広島大学名誉教授)
日時
2017年10月3日(火)13:20~14:50
会場
鶴甲第2キャンパス A427(A棟4階)
報告
本講義では,日本の戦後理科教育史研究の第一人者である柴一実先生から,戦後の小学校理科教育成立過程に関するお話を伺った。講義では,占領統治下における学習指導要領(試案)の成立について,資料をもとに当時の文部省とCIEで行われていた折衝を紐解き,戦後の日本の小学校理科におけるパラダイムシフトを考察した柴先生の研究の概要を丁寧に解説していただいた。特に興味深かったのは,先行研究で語られていた日本の小学校理科における基本的な考え方が戦前~戦後を通してあまり変化していないという定説について,柴先生が疑問を提起し,当時のCIE担当官が日本に持ち込んだ教育理論書や教科書と試案との共通項や,担当官と文部科学省で学習指導要領の編纂に関わっていた人物との間でやり取りされた資料を根拠に新しい見解を示したプロセスであった。歴史研究に疎い報告者であったが,この分野の着想やアプローチの方法を学ぶことができ,大変勉強になるととともに研究の醍醐味の一端を知ることができた。自身の研究では博物館における学習支援などを取り扱っているが,小学校理科教育の思想は学習支援の考え方に深く根ざすものであり,そのルーツがどこにあり,どのように変容してきたかを知る,探ることの重要性と面白さを改めて認識することができた。柴先生のご講義を拝聴できたことは,自身の研究を見つめる意味からも得難い経験であった。(人間発達専攻 D3 江草遼平)

研究道#dojyo">研究道場特別講義の一覧へ戻る

「AIと未来社会」報告

講師
杉本 雅則(北海道大学情報科学研究科教授)
日時
2017年10月4日(水)15:10~16:40
会場
鶴甲第2キャンパス A447(A棟4階)
報告
本講義では,北海道大学の杉本雅則先生に「AIと未来社会」というテーマで人工知能研究の発展の歴史を伺った。杉本先生は,人工知能やHCI,センシングテクノロジ,ユビキタスコンピューティングに関する研究を専門にされており,人工知能学会の理事を勤めるなど情報科学研究を代表する研究者である。昨今,人工知能にかかる期待は大きく,テレビでも特集が盛んに組まれるなど,もはや市民が人工知能と社会の関わりについて知り,考えることから逃れることはできない得ない状況である。杉本先生には,人工知能研究の歴史的な隆盛や「冬の時代」と呼ばれる人工知能研究の停滞期(というと,少し語弊があるが)について,順を追って丁寧に解説して頂いた。一番興味深かったのは,現在の人工知能への社会の関心が,歴史的に見れば繰り返されてきたものであり,社会が過剰な期待をかけ,失望し,関心を失うことで人工知能研究が冬の時代に入るというサイクルをこれまで何度も続けてきていることである。しかし,冬の時代にも研究者たちが着実に研究を蓄積し,次の人工知能研究の大きな発展の基盤を作り上げていたこと,それらが現在の私たちの生活を支えていることがわかり,報告者の人工知能研究に関する関心がますます高まった。報告者は,ICTを用いた教育コンテンツの開発研究に従事しており,特にセンサリングによって学習者とコンピュータをインタラクションさせる方法とその応用について関心がある。大量のデータを収集・分析し学習者に最適な環境をセッティングすることができる人工知能の可能性について,深く学んでゆきたいと感じさせられる講義であった。この場を借りて,杉本先生にお礼を申し上げたい。(人間発達専攻 D3 江草遼平)

研究道#dojyo">研究道場特別講義の一覧へ戻る

「理科教育における「主体的・対話的で深い学び」」報告

講師
山下 修一(千葉大学教育学部教授)
日時
2017年10月11日(水)13:20~14:50
会場
鶴甲第2キャンパス B202(B棟2階)
報告
本セミナーでは,理科教育の授業研究を行う山下修一先生をお招きして,「理科教育における『主体的・対話的で深い学び』」という題目でご講演をいただいた。山下修一先生は,高校物理の教員を経験した後に,現在は,アクティブ・ラーニングを取り入れた理科の授業研究を行っている。アクティブ・ラーニングとは,「教員による一方向の講義形式の教育とは異なり,学習者の能動的な学習への参加を取り入れた教授・学習法の総称」である。
講演では,まず,PISAなどの世界的な学習到達度調査において,日本は高い水準であることが紹介された。海外と比較して,日本の小中学校の理科の授業は話し合いや実験が多く,授業研究の実施が特徴であるそうだ。山下先生は日本の理科授業が優れているものの,以下の2点が理科の授業づくりの改善点であると述べていた。1点目に,観察や実験を重視することだけではなく,教師が単元全体を理解して,実験を組み立てることである。2点目に,各実験で生徒自らが考え,教師がそれらの意見を上手くまとめることである。講義では,実際に,落下運動やふりこ運動を少人数で話し合い,考えを発表する方法で進行し,受講生は生徒が経験することを追体験することができた。この講演を通じて,単元を深く理解した上で実験を計画し,さらに,科学的に妥当な解を生徒の言語的な活動を通じて導くことが,教師に求められることであることを学んだ。(人間発達専攻 M2 田中維)

研究道#dojyo">研究道場特別講義の一覧へ戻る

「コミュニケーションとしての展示~博物館展示への学習者による新たな価値創造を促す学習プログラムの試み~」報告

講師
小川 義和(国立科学博物館付属自然教育園長(兼)博物館等連携推進センター長)
日時
2017年10月20日(金)15:10~16:40
会場
鶴甲第2キャンパス A427(A棟4階)
報告
本研究道場特別講義では科学教育・博物館教育・サイエンスコミュケーション研究分野で著名な国立科学博物館の小川義和先生をお招きし,「コミュニケーションとしての展示~博物館展示への学習者による新たな価値創造を促す学習プログラムの試み~」という題目で講演していただいた.ご講演では,小川先生がこれまで実際に取り組んでこられた事例を踏まえながら博物館の歴史や博物館教育に関してお話を伺った。
博物館は類似施設も含めると5000館以上も存在しているが,博物館法により,相当施設や類似施設が多いという問題がある。国立科学博物館でさえも相当施設であり,博物館登録はされていない状況である。博物館の種類は多岐にわたり,例えば,科学博物館の他にも歴史博物館や美術博物館などが挙げられる。それらの区別に関しては,非常に曖昧であり,異なる種類の博物館に同様の展示物が設置されている場合もある。また,博物館の歴史は長く,最古の公共博物館であるアシュモレアン博物館は1683年に建てられている。博物館の役割は,大きく3種類に分けられる。1つ目は資料の収集・保管,2つ目は調査・研究,3つ目は展示・教育である.Internationl Council of Museums (ICOM)によると「博物館とは,資料の収集,整理・保管,調査研究とそれらの成果を生かした展示や教育活動の各機能をもつ社会に開かれた施設」であると定義づけられている。
博物館教育は,生涯学習において重要な意義を持っている。博物館教育においては,展示を通して学芸員(見せる側)と来館者(見る側)の間のコミュニケーションが成立することが必要である。そのコミュニケーションこそがサイエンスコミュニケーションであり,サイエンスコミュニケーションを洗練するために,来館者の発現を研究しフィードバックを得ることが必要である。本講義を受けることで,インフォーマル学習の代表ともいえる博物館教育の歴史や現状を知ることができ,普段の自分自身の研究とは異なる視点からの知見を得ることができたと感じている。(人間発達専攻 M1 若林和也)

研究道#dojyo">研究道場特別講義の一覧へ戻る

「TIMSSとPISAの視点で見た新学習指導要領」報告

講師
中山 迅(宮崎大学大学院教育学研究科教授)
日時
2017年11月1日(水)13:20~14:50
会場
鶴甲第2キャンパス B202(B棟2階)
報告
本研究道場では,中山迅先生に「TIMSSとPISAの視点で見た新学習指導要領」というテーマでご講演いただいた。中山先生は,理科教育および科学教育の発展に長年取り組んでおられる。現在は,日本科学教育学会の会長を務め,日本の理科教育および科学教育を牽引する理科教育学の研究者である。
学習指導要領は,現代の児童・生徒が持つ知識や素朴概念に基づいた教育課程の基準が書かれている。そのため,学習指導要領の改訂には,TIMSS,PISA等の国際的な学力調査の結果が大きく影響する。ご講演では,TIMSS2003の実際の問題,当時の日本の児童の正答率および,その後改訂された2008年学習指導要領の関連箇所が紹介され,日本の学習指導要領が国際調査に影響を受けていることを学ぶことができた。また,本年度告示された,小学校および中学校の学習指導要領もPISA2015,TIMSS2015の内容が反映されていることの説明を受けた。その後受講生は,PISA2015の科学リテラシー習熟度レベル6の記述例と,本年度告示された学習指導要領において新たに言及された「理科において育成を目指す資質・能力の整理」との関連箇所を考えた。例えば,国際調査にて「科学的な問いと非科学的な問いを区別する」と指摘された科学的リテラシーは,学習指導要領の小学校3年では「自然事象の差異点や共通点に気づき問題を見出す力」に置き換えられていた。報告者は,学校外の科学教育施設における教育支援方法について研究にしている。特に,動物園来園者を対象とした動物の観察支援システムについての研究を行っている。これまで報告者は,動物園は学校外の科学教育施設であるため,国際学力調査や学習指導要領等で述べられている科学教育の在り方に特に注視していなかった。しかし,今回の講演で,国際調査や学習指導要領で言及されている理科や科学の学習で求められる能力は,現代の児童・生徒の現状を反映しており,学校外の科学教育にも非常に有益な内容であることを認識することができた。(人間発達専攻 M2 田中維)

研究道#dojyo">研究道場特別講義の一覧へ戻る

「21世紀型能力を考慮した教育の情報化の展望~教員養成の実際と先導的な教育実践研究の事例から~」報告

講師
北澤 武(東京学芸大学准教授)
日時
2017年11月9日(木)15:10~16:40
会場
鶴甲第2キャンパス A427(A棟4階)
報告
本研究道場では,北澤武先生に「21世紀型能力を考慮した教育の情報化の展望~教員養成の実際と先導的な教育実践研究の事例から~」というテーマでご講演いただいた。北澤先生は,ICT機器を活用した研究実践を数多く実施されている。本講演では,3部構成で進行した。はじめに,ICT教育が行われるようになった背景,次にICT教育に関わる教員養成の実態,最後に教育実践研究について講演をされた。
本報告では,特に最後に講演されていた,教育実践研究について取り扱いたい。近年,アクティブラーニングの必要性がよく述べられている。アクティブラーニングとは,主体的・対話的で深い学びのことを意味する。しかし一方で,児童・生徒の中には,先生やクラスメイトの視線を意識して,授業中の発言や発表など,自己を表現することが苦手とする子どもがいる。そこで,北澤先生は,このような児童がICT機器を利用することで,自己を表現しやすくなり,成績したことを示す研究を行った。報告者もICT機器を用いた教育実践に関わる研究を行っている。具体的には,アニメーションを用いることで,動物の行動に関わる観察支援を試みている。この研究は,動画が再生可能であるICT機器の顕著な特徴を活用したところに留まっている。本講義を聞いて,ICT機器の活用によって,児童・生徒が情報を得るだけではなく,従来では十分に自己を表現することができなかった児童・生徒が自己を表現することができるという新しいICT機器の可能性について考えることができた。(人間発達専攻 M2 田中維)

研究道#dojyo">研究道場特別講義の一覧へ戻る

「ゲーム学習の特徴とデザイン方法 」報告

講師
池尻 良平(東京大学大学院情報学環特任講師)
日時
2017年11月24日(金)15:10~16:40
会場
鶴甲第2キャンパス A427(A棟4階)
報告
本研究道場特別講義では,東京大学大学院情報学環特任講師で教育工学,特に歴史ゲーム学習をご専門にされている池尻良平先生をお招きし,「ゲーム学習の特徴とデザイン方法」という題目で講演して頂いた。ゲーム学習は,近年非常に注目を浴びており,これからの発展が予想される領域である。ゲーム学習の定義は,「ゲームを利用した教育・学習活動」であり,そのメリットとしては,モチベーションの喚起・維持や,安全な環境での体験学習などが挙げられる。本講義では,実際にゲーム学習を体験したり,池尻先生の開発されたゲーム教材を見せて頂いたり等,実際にゲーム学習に触れつつ,ゲーム学習の特徴やデザインに関して学ぶことができた。
ゲーム学習には,コミュニケーション能力とディブリーフィング(振り返り)が非常に重要である。特に後者はゲーム学習における本来の目的に対する理解を促進するようなディブリーフィングを行うことが重要である。本講義において実際に体験したidentikというゲームは,コミュニケーションの重要性を理解することを目的としたゲームであった。しかし,このゲームを体験して本当にコミュニケーションにおける重要な点を理解できたのは,ゲーム後の受講生同士のフィードバックを行った時であった。このように,ゲーム学習において重要なことはゲームそのものを学習において体験することではなく,その後のフィードバックを有意義なものにすることである。
学習ゲームのデザインには大きく2種類あり,(1)既存のゲームを利用するデザイン,(2)目標の学習プロセスをゲームの主構造にするデザインである。どちらの手法においても,ゲームをデザインする上で重要な点はフロー状態を維持することである。フロー状態とは「目の前のことに没頭している状態」のことを指しており,その状態を維持するためには,「難易度の高さ」と「学習者のスキル」のバランスが重要である。このバランスが整い,フロー状態が維持されることで,学習者の自発的参加を促すことができるのである。報告者はSocio Scientific Issuesを利用した授業デザインの研究を行っている。本講義でゲーム学習に関して学ぶことで,今まで考えたことのなかった新たな観点での授業デザインの手法を知ることができた。(人間発達専攻 M1 若林和也)

研究道#dojyo">研究道場特別講義の一覧へ戻る

「ジェンダーの視点による理科教育研究」報告

講師
稲田 結美(日本体育大学准教授)
日時
2017年11月28日(火)15:10~16:40
会場
鶴甲第2キャンパス A427(A棟4階)
報告
本研究道場では,稲田結美先生に「ジェンダーの視点による理科教育研究」というテーマでご講演いただいた。稲田先生は,前職で中学校の理科教員をされており,そこで女子生徒の理科嫌いに疑問を持ち,本テーマを研究するようになった。
講演では,男子生徒と比べて,女子生徒が生物や天文に関する分野を好む一方で,物理や化学を嫌う傾向にあること,及びその要因について述べられた。理科に対する興味関心の男女差には,主に2点の要因がある。1点目は,幼少期の経験である。幼児期に,男子は乗り物のおもちゃやスポーツを行うことから,理科に直接的に関連する経験(特に物理)を多く有するが,女子はままごとや人形遊び,動物の世話など生物学とわずかに関連する経験しか持ち合わせていないことが,女子の理科への興味関心の傾向の由来の一つとして挙げられる。2点目は,理科教育の中に見られる隠れたカリキュラムである。「理系に行く女子は苦労する」「男子は理系,女子は文系が普通だ」といった教師の発言・ふるまいなどが挙げられることもまた,女子の理科嫌いへ影響を及ぼしている。女子校では男子と比較した環境下にないため,理科好きの女子が比較的多いそうだ。
報告者は,生物分野の教育コンテンツの開発と評価に関する研究している。本講演を通じて,開発したコンテンツに関する教育効果の男女差を明らかにすることは,研究分析の観点のひとつになりうるという新しい発想を得ることができた。(人間発達専攻 M2 田中維)

研究道#dojyo">研究道場特別講義の一覧へ戻る